明けましておめでとうございます。
今年最初の記事は、すこし前から読み返している村上春樹の小説の感想文になります。
私事ですが、いまでもときどき村上春樹の『1973年のピンボール』読み返すことがあります。
実をいうと、僕はライトなハルキストです。
だから本書のクールな主人公、不思議な双子の女の子、鼠、ジェイなどのことは本を開かなくてもだいたい憶えています。
さて、1973年のピンボールは、このシリーズの1作目である『風の歌を聴け』の続編となり、初期の世界観が引き継がれています。
舞台はもう半世紀近く前の東京。つまり古き良き時代の話です。
そこで、学生時代の友人と翻訳会社をはじめた主人公のアパートにひょんなことから家出中と思われる双子の少女が転がり込み、不思議な共同生活がはじまります。
けれども、さほど特別なことがあるわけではなく、いっしょにビートルズの『ラバーソウル』を聴いたり、コーヒーを飲んだりする場面が多いです。
また、本書はピュアな文学作品といっても過言ではありませんが、世界観はドライであっさりしています。
これこそ、本書が諸外国の読書家から歓迎されている秘蹟になっているのではないでしょうか。
ついでにいうと、本書では主な登場人物の誰かが死んだり、ショッキングな出来事があったりするわけではありません。
そのため、続編の『羊をめぐる冒険』やその続編ともいわれている『ダンス・ダンス・ダンス』。
あるいは、『ノルウェイの森』や『1Q84』といった国内で知名度の高い作品に比べると、愛や死について考えさせられることは多くありません。
他にも、村上春樹作品にありがちな風景や主人公が淡々と料理を作る描写も散見されますが、細部に著者の深い内面が織り込まれた穏やかな物語になっています。
参考書籍:1973年のピンボール