精神的遊牧民

北海道の海辺に輝く朝焼けのように清らかなブログ

漫画『恋とはどういうものかしら?』

日本社会では『必要以上の労働に意味や価値があるのでしょうか』といった過労の意味を考えさせず、自分の仕事が終わった後も周りの視線を意識させて、みんなに合わせて定時で退社するような我慢の繰り返しを尊重する価値観が主流になっていました。

勿論、本当に緊急の時は勤務時間外でも労働に勤しむことは大切ですが、自分の仕事をさっさと済ませてちょっと休憩したり、そそくさと帰ったり、強制でもない会議に加わらなかったりすると『あの人は空気を読めないなあ』みたいな見方をされていました。この手の話は他人事ではないのですが、こちらを見ている方にもぎくっと思った方も多いのではないでしょうか。

そうした流れができたのは、徳川幕府の時代にまで遡りますが、今回紹介する作品は、そういった日常に疲れた方の気分転換に役立ちそうな2003年5月22日に岡崎京子さんがマガジンハウスから出版した作品です。

ちなみに、岡崎京子作品は、今作以外では『リバーズ・エッジ』と『エンド・オブ・ザワールド』と『ヘルタースケルター』と『チワワちゃん』が気に入っています。

さて、本作の解説に入りますが、今回の短篇集は90年代半ばまでの日本の都会の話が中心です。著者特有のささやかなユーモアは含まれていますが、みんなで滅私になってとにかく前向きになったり、そういった行為にあまり加わらない方を笑ったり疎外するような描写は見受けられません。

押し付けられた価値観を信じ込まされ過ぎた方が読むと、腰を抜かして尻餅をつきそうな描写は多少含まれていますが、他作品同様に穏やかな日常な中に潜む官能的な表現がベースになっています。

特に、257ページに集録されている『にちようび』は傑作で、さりげなくいじめの構造を分析した260ページ2コマ目から6コマ目の描写はリアルです。私は繊細な過去を語り合うカップルが、そっと寄り添っている262ページの情景が好きで、270ページの1コマ目から最後の272ページの3コマ目までの流れになぐさめが施されているところが好きです。傘もささないで海面に降りそそぐ雨と船の灯りを見つめながらの会話はすてきです。

ひょっとすると、収録されている作品の多くは、ピチカート・ファイブや所謂渋谷系と呼ばれる音楽を聴きながら書かれたのではないでしょうか。
 

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最近、岡崎京子さんの作品を読み返していたのですが、この人はこちらで紹介している他の方と同様に、いくらか物事をななめに解読したり深く考えすぎるところはあるかもしれないけれど、本当は不器用で純粋な人だなあと思いました。