精神的遊牧民

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漫画『ホーリーランド』

ホーリーランドとは、2001年に1巻が発行され2008年に18巻で完結した森恒二さんの漫画です。著者は、現在もヤングアニマルで、自殺願望がある漫画読みの間で定番になっていて一般層にも親しまれている『自殺島』を連載しています。

学校にも家庭にも身の置き所がない自殺願望のある少年神代ユウ(主人公)は、下北で破落戸丸出しの不良少年から金銭を脅し取られそうになりますが、自己流で身に付けたボクシングの技術で回避します。その話に興味を示した街のカリスマ少年マサキらのグループが接触を試みます。そこから自分達の居場所(ホーリーランド)を探す者達の物語が始まります。

作者は、本作がデビュー作なので、序盤から少しの間人物設計がやや不自然なところがあります。しかし、下北のヤンキ狩りとして巷で知られるようになったユウが、不良の子供の集団に攫われヤキを入れられそうな雰囲気の、集団意識で個人を貶めようとする醜悪な1巻の186ページの1コマ目の描写。それから、かたよった視線で個人を支配しようとする2巻の20ページの描写は、妙にリアルです。

5巻の冒頭から、個人として理不尽や不条理にあらがうユウの不断の姿勢に対し、かつては敵側だった街の不良の子供達からも個人に対する集団での暴力への疑問や嫌悪感が芽生えていくようになります。

ヤンキー達が、自分達の正しさや間違いだとかいう価値観を以て相手を支配する為、都合のいい情報だけを集めて恣意的な言説をとなえ、個人や争う気もないその関係者へ徒党を組んで威喝したり高圧的態度をとったりすることがフェアではない、ということに気付き、正気を取り戻していく描写はリアルで、一般的な不良や格闘漫画の範疇から逸脱しています。

街の不良少年の間でカリスマと呼ばれるマサキのトラウマにもなっていて、強さの源にもなっている、過去に受けた集団での暴力や支配などの理不尽さや嫌悪感を、作者は常に意識されていたのではないでしょうか。

個人的には、本作の裏の主人公と考えても差し支えのないマサキが、痛ましいまでに傷付き偶然迷い込んだ真夜中の教会で救いを見い出いだしていく14巻の59ページからの展開が特に好きです。

扱われている問題や極端な描写などからキワモノ扱いされてしまう性質がある、という難点はありますが、この種の漫画にありがちな善悪の二頂対立の構図を用いて、対立していた人物をただの悪人のように扱うのではなく、その子供達も本当は追い詰められていたり居場所を探していたり、そうした人間的な弱さが、理性的に表現されているところもいいです。8巻の104ページ、10巻の122~128ページなどがそうですが、16巻の109112ページで葛藤と怒りに震えるユウに、113114ページ1コマ目でマサキが示す描写は秀逸。

この作品はそういった視点で読んでみると、意外な読み応えがあると思います。単行本カバーの内側に掲載されている著者のメッセージには心が揺さぶられました。

気が向いた方は、よかったら見てみてください。
 

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